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【海外試乗】新型インサイトは、大人のビジネスパーソンが似合う上質セダンだ

2018年12月に、日本国内での販売が開始された新型インサイト。同名を冠した車両としては三代目にあたるモデルだが、ボディ形状は初代(2シーター・ハッチバック)とも二代目(5ドア・ハッチバック)とも異なり、4ドア・セダンとして登場した。

三代目とはいっても、過去のモデルと共通しているのは、パワートレインにエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用していることと、駆動方式がFFとなる部分のみ。車両価格帯もコンセプトも異なる、まったく別のクルマといっていいだろう。

北米仕様インサイトのボディサイズは全長183.6×全幅71.6×全高55.6インチ。日本仕様の表記は4675×1820×1410mmとなる

そんな新型インサイトは、車体の基本設計を現行シビックと共有する上級セダン。10代目となる現行シビックでは、ハイブリッドがモデル・ラインナップから消滅しており、事実上このインサイトが補完する形となる。ただし外観デザインおよび内装の仕立てはシビックから大きく変更されており、上質さをアピール。『シビック以上、アコード未満』という位置付けだ。

ルーフラインはシビックの面影を感じさせるが、前後バンパーやレンズ類などはインサイト専用設計。グリルまわりは現行ホンダ車に共通する意匠ながら、より洗練された印象を受ける。リアスポイラーのないトランクもプレーンで美しく、直線基調のシビックに対して曲線を多く用いることで、独自のスタイリングを実現している。

この『シビック以上、アコード未満』はボディサイズだけでなくパワートレインも同様で、エンジンは1.5リッターDOHC4気筒を搭載。これにふたつのモーターを組み合わせたi-MMDハイブリッドを採用する。

ハイブリッドシステムとしてはアコードハイブリッドと同様だが、あちらが2リッター4気筒i-MMDを搭載するのに対し、インサイトは1.5リッター。なおエンジンは107hp、モーターは129hpの出力を誇り、システム合計出力は151hpとなる。

新型インサイトが搭載する1.5リッターのi-MMD。基本的にエンジンは発電用として用いられる

日本国内のラインナップでいうと、”グレイス・ハイブリッドのエンジンとステップワゴン・ハイブリッドのi-MMDシステムを組み合わせたもの”と考えていい。グレイス・ハイブリッドは同じ4ドアセダンでもあり、日本市場においては『グレイス・ハイブリッドとの(走りや居住性における)違い』が、インサイトにおける重要なセールスポイントとなるだろう。

なお北米市場にグレイスは投入されておらず、フィットやHR-V(ヴェゼル)もガソリンエンジン車のみの設定となるため、新型インサイトは北米市場におけるホンダ・ハイブリッドのエントリーモデルとしての役割も担うことになる。

ボディサイズはシビック・セダンとほぼ同等。1.5リッターi-MMDは極低回転域からトルクに富み、頼りなさはまったく感じられない

そんな新型インサイトの日本国内発売を前に、アメリカ仕様を試乗する機会に恵まれた。毎年11月にネバダ州ラスベガスで開催される『SEMAショー』の取材に合わせ、ロサンゼルス〜ラスベガス間の往復を中心に総計で約1000マイル(1600キロ)をドライブ。市街地やフリーウェイのロングドライブだけでなく、ワインディングも走ることで、日常使用におけるシチュエーションはほぼすべて走ることができた。

本革巻きタイプのステアリングや、ホンダリンクと呼ばれる最新ナビシステムはTOURINGに標準装備

今回の試乗車両は、北米仕様インサイトの最上級グレードとなるTOURING。モデルラインナップはLX/EX/TOURINGの3グレード展開となるが、パワートレーンなど基本構成はすべて同じ。各グレードの違いは、内装の素材やナビゲーションシステム、タイヤ&ホイールなど一部に限られている。

現行シビックと同様のやや太めのドアノブに手をかけて車内に滑り込むと、そこには近年のホンダ車に共通する視界が広がっている。運転席から眺める前方視界は大きく開かれ、メーターパネルも非常に見やすい。2眼式メーターは右の速度計は表示固定、左は瞬間燃費や走行データ、パワーデリバリーの様子など様々な情報を切り替えて表示することができる。

ハイブリッド専用車のためシフトレバーは存在せず、ホンダ車に共通するボタン式セレクターを採用。Dボタンを押し、電磁式パーキングブレーキをリリースすると走り出す。センターコンソールにはECON/SPORT/EVの走行モードスイッチが備わるが、標準モードであっても停車時からの走り出しはモーターのみで行われる。

TOURINGに標準装備されるMobile Hotspot Capabilityでは、スマートフォンの非接触充電が可能

新型インサイトのドライブフィールは非常にスムーズで、都市部における加減速や交差点でのゼロ発進時など、従来のホンダ・ハイブリッド車に見られた”唐突感”が薄れ、非常に洗練された印象を受ける。フリーウェイ(高速道路)の合流時など、アクセルを強く踏み込むとエンジンからの動力がサポートで加わるが、その瞬間もほとんど体感することはできなかった。

ただしトランスミッションが存在しないというi-MMDの構造上、高速道路の追い越し加速時や長い上り坂などではスロットルを強く踏み込む必要があり、その際にはエンジン回転が高まって運転席でも「うねり音」を感じる場面は何度かあった。

シートは大柄でサポート部分も厚く、クラスを超えた座り心地を提供。ロサンゼルスからラスベガスまで、約5時間30分の長距離運転でも大きな疲れを感じることはなかった。3人定員となる後席シートは前後スペースがたっぷりと確保されており、一般的な日本人の体格であれば足を組んで座ることも可能だろう。

3人がけとなるリアシート。中央部分の背もたれはアームレストとして使用することができる

またリチウムイオンバッテリーは後席の下に配置されているため、トランクルームは犠牲になることなく十分な容量が与えられている。標準モデルのLXとEXでは428リッター、TOURINGでは416リッターの容量が確保されており、スーツケースも楽々と収納することができた。

左右からの張り出しはあるものの、奥行きはたっぷり。60:40の分割可倒式トランクスルー機構も備わる

ホンダの新車ラインナップにおいては、シビックの上位に位置づけられる新型インサイトだが、その走りに関してどちらが元気かと聞かれたなら、軍配はシビック・セダンに上がる。

基本的に同じシャシーを使用する両車だが、1.5リッター・ターボを搭載するシビックに対して1.5リッター・ハイブリッドのインサイトは、中〜高回転域以降の加速力をはじめ動力性能においては一歩譲る。いっぽうで直進安定性の高さや落ち着きのあるハンドリングは、フォーマルやインテリジェンスといった独自の魅力を新型インサイトに与えている。

タイヤサイズはLX/EXが215/55R16、TOURINGはコンチネンタル製プロコンタクトの215/50R17を履く

近年、アメリカでは世代を問わずSUVの人気が高め安定となっていて、ファミリーユースの主役もSUVかミニバンとなっている。フルサイズの高級サルーンを別にすれば、コンパクトセダンはもはや多人数で週末に乗るクルマではなく、ビジネスパーソンのウィークデイのパートナー、あるいは若い男女の生活のアシという傾向が強い。

そんななか登場した新型インサイトは、シビック・セダンに比べ『知的かつ(プチ)セレブ』な印象を抱かせるクルマだ。アメリカ市場におけるホンダ・ハイブリッドの最小排気量モデルであることも、環境問題への意識が高いオーナーというイメージ作りに貢献してくれる。

日本市場においては、2019年1月の時点で現行アコードが導入されていないため、グレイスおよびシビックとレジェンドとの中間を埋めるモデルとなる。レジェンドは大きさも車両価格も別格となってしまうが、グレイスではちょっと車内スペースが小さいという人にとっては、シビック・セダンだけでなくインサイトという2つめの選択肢が加わることは朗報といえる。

実際、その走りのフィーリングは外観デザイン以上に両車の違いは大きい。シビックのようにわかりやすいキャラクターではないけれど、新型インサイトは長く付き合っていくうちに良さを実感する伴侶のようなクルマだ。

なおインサイトの代名詞でもある燃費性能について記しておくと、約1000マイルを試乗した今回のトータルスコアはリッター20.0kmだった。もっとも走行シーンの多くをエンジン動力がアシストに使われるフリーウェイが占めており、日本国内での場合はモーターでの走行が中心となる街中の割合が増えると思われるので、数値はもっと向上するだろう。

(text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)