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【ホンダアクセス】「やればできる!」がチームの合い言葉。サーキットは心も技術も鍛えられる場所【NOC参戦記】

2014年に始まった参加型モータースポーツ「N-ONEオーナーズカップ(NOC)」。ナンバー付き軽自動車のN-ONEによるワンメイクレースで、参戦コストが抑えられていることから多くの参加者から人気となっている。そんなNOCの開幕当初から参戦を続けているのが、ホンダの純正アクセサリーを開発・販売するホンダアクセスの社内チームである。

ご存知のとおり、ホンダアクセスでは「Modulo」のスポーティブランドを持っており、NOC参戦車両にも大きくロゴが描かれている。それだけ見ると、つい「会社業務として参戦しているの?」と思ってしまうが、実際はクルマ好き・レース好きな社員はもちろん、チームとして戦うモータースポーツに興味があるというメンバーまで、意欲的な若手社員のよるクラブ活動といった雰囲気でチームは運営されている。

全16戦+FINALで争われるNOC。シリーズチャンピオン争いが懸かるFINALラウンドには、49台がエントリー。予選では1秒以内に10台がひしめくなど大根戦! 決勝レースでもあちこちで迫力あるバトルが展開された

ホンダアクセス内でNOC参戦チームが立ち上げられたのは’14年のこと。現在、Modulo開発統括を務める福田正剛氏が中心となり、ホンダアクセス社員の自己啓発活動としてスタートしたそうだ。

チームでは「若手育成」を最大の目的として掲げているため、入社5年目までであれば誰でも参加できるそう。現在のメンバーは10名で、ホンダアクセスの栃木・新座・日高の3事業所が連携し活動している。

98号車のドライバーとして参戦した菊田辰哉選手は入社5年目。普段の業務ではModuloのアルミホイール設計を担当している。チームでは最年長であり、監督も兼任する

NOCへの参戦活動は会社業務ではなく、あくまで自己啓発活動。そのため、チーム作業は業務時間外の活動に限定される。活動内容はレース参戦にまつわるすべての作業におよび、マシンメンテナンスや遠征の際の宿泊手配などをチームメンバーで分担して行っている。

2021年シーズン開幕戦で優勝を飾った菊田選手だが、チームに加入した4年前はクルマを所有したことがなかったという。NOCの活動を通じ、知識や技術の面で大きな成長を感じている

チーム内の最年長メンバーといっても入社5年目。会社員としてはまだまだ若手なメンバーばかりなだけに、NOCの現場においても失敗したことはもちろんある。時間を勘違いして専有走行前にバタバタになったり、ガソリンを入れ忘れたまま予選を走ったり、車高(最低地上高)が足りずにレース車検でNGと言われたり……。

しかしそんな失敗も糧とするべく、チームではメンバー全員による『失敗の振り返り』の時間を大切にしているという。そのミーティングでは失敗の原因を見つめ、どうすべきだったかを話し合う。後輩への指導やアドバイスを送ることで、リーダーシップやコミュニケーション能力といった部分でも、良い成長の場となっているそうだ。

98号車は予選3位、決勝11位。『レースに出てみたい!』と思ってNOCの活動に参画した菊田選手、今では活動から得られた経験がModulo Xのホイール設計にも活かされているとのこと

モータースポーツは、楽しさの反面、危険と隣り合わせというリスクが伴うスポーツでもある。そのため安全に活動できるよう、チームでは独自のルールを設けているとのこと。

それは①1年目はメカニック専任、②2年目はスピンや横転といった可能性が少ないModulo純正形状サス装着車(99号車)で参戦、③3年目から車高調整式サス装着車(98号車)で参戦する、というもの。趣味でレースを楽しむアマチュアだからこそ、安全に楽しむということを最優先に掲げているのだ。

99号車をドライブする井岡康晟選手は入社4年目、内装用品のテストや研究を担当している。入社1年目からこの社内チームに参加しており、’22年度は菊田選手からチーム監督を引き継ぐ

今回、’21年シーズンのNOC最終戦にエントリーしたのは、菊田辰哉選手(98号車)と井岡康晟選手(99号車)。ドライバーの人選に関してはドライビングスキルなどは一切関係なく、通常は開幕戦の前に、メンバーの希望や経験に合わせて参戦するレースを決めているとのこと。

というのもNOCでは参戦台数が増え続けていることから、主催者であるNOC事務局が「ランキング下位優先のレース」「上位優先のレース」といった区分けを行っており、それに合わせて参戦を行っているためだ。

99号車は予選17位、決勝16位。井岡選手は運転技術の向上や整備知識など、毎戦目標を立てて「やればできる!」の心意気で参戦しているとのこと

2021年は開幕戦のツインリンクもてぎで菊田選手が優勝するなど、好調さを感じさせたホンダアクセス・チーム。NOCの魅力はレースだけに留まらず、業務に活かせる経験ができる点にもあるという。NOCのパドックでは、ホンダ車ユーザーと近い距離感でコミュニケーションをとることができるからだ。

通常の業務においてはエンドユーザーと話す機会は少ないものの、NOCの現場で得られる気付きや経験は、ホンダが大切にしている三現主義(現場・現物・現実)に通じる。NOCへの参戦を通じてモータースポーツの過酷さや楽しさを体感し、ユーザーから頂いた要望を用品開発業務にフィードバックすることで、より良いモノづくりに繋げられているそうだ。

チームでは、年間を通してメンバー全員がドライバーとして参戦するのが大前提。ドライバーとメカニック、サポートメンバーなどすべてのポジションを担当することでお互いの仕事や気持ちを体験することも重要だという

『NOCでは本当に多くの経験をさせてもらっています』

爽やかな笑顔でこう語る彼らの表情を見ていると、「レースは走る実験室」という、本田宗一郎氏が語ったとされる言葉が思い出される。

チームメンバーは普段の業務終了後に集まってミーティングを重ねたり、休日には近くのサーキットで練習会を開催するなどしてN-ONEを走らせ、地道にデータ取りを重ねている。そうした地道な努力がチーム力の向上に繋がり、マシンだけでなくチームメンバーにとっても最高の研鑽の場となっているのだ。

「やればできる!!」というコンセプトを掲げ、若手中心のメンバーでNOCに参戦を続けるホンダアクセス。環境問題が声高に叫ばれ、スポーツカーには逆風と思える現代だが、クルマが好き、レースが大好きという次世代のエンジニアが紡ぎ出す未来のモータリゼーションは、きっと明るいに違いない。

(photo:Yukio YOSHIMI 吉見幸夫 text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)

ホンダアクセス
www.honda.co.jp/ACCESS/