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【試乗記】進化した脚まわりとボディの軽量化がもたらす扱いやすさ。シビック・タイプR Limited Editionで鈴鹿を走る

FK8型シビック・タイプRの最終仕様となるかもしれない、2020年モデルに設定された限定車「Limited Edition」を鈴鹿サーキットで試す機会を得た。従来モデルでは懸念材料といえた冷却性やブレーキの熱対策が行われた2020年モデルをベースに、さらに軽量化や脚まわりのリセッティング、そして専用ホイールとタイヤを装備するLimited Editionは、一体どんな走りをみせてくれるのだろうか?

(Honda Style 100号/2020年12月発売号に掲載)

進化した2020年モデルをベースとした「究極のFK8」

欧州市場向けシビックを中心に、長らくホンダ車の生産を行ってきたイギリス・スウィンドン工場が2021年いっぱいで閉鎖されることに従い、FK8型シビック・タイプRはモデルライフの終盤戦に差し掛かっている。そんな状況下で、ホンダは2020年モデルとしてマイナーチェンジを実施し、限定モデル「Limited Edition(リミテッドエディション)」も設定した。

世界限定1000台、そのうち日本市場への割り当ては200台というリミテッドエディションは、ベースモデルから約75万円アップとなる550万円の車両価格ながら、その希少さもあってオーダーが殺到。2020年11月23日には、日本仕様のシリアルナンバー1〜10番を購入できる商談権の抽選会が行われたが、そこには8000人を超える応募があったという。

それほど人気のモデルとなれば、実際に触れられることはないかと思っていたが、ホンダは自動車メディアに対して試乗会という機会を設定してくれた。しかも舞台は鈴鹿サーキットのレーシングコースである。

すでに新車購入することのできないクルマに試乗できることは非常に珍しいが、惜しくも商談権を手にできなかった人たちに対して、リミテッドエディションの魅力をお伝えできる貴重な機会。もちろん自動車メーカーとして、それだけリミテッドエディションの運動性能や質感の高さに対して自信を持っているという部分もあるだろう。あらためて身が引き締まる想いで、試乗取材の当日を迎えた。

量産車FF車両で世界最速のパフォーマンスを実現

鈴鹿サーキットにおける量産FF車最速の称号を手にしたリミテッドエディション。そのテスト車両も展示され、ボディにはベストラップとなる2分23秒9とともに、ドライバー・伊沢拓也選手のサインが描かれていた

すでに様々なメディアで紹介されているが、このリミテッドエディションは、現役レーシングドライバー・伊沢拓也選手のアタックにより、鈴鹿サーキットの市販FF車最速となる2分23秒9というラップタイムを記録している。その大きな要因となっているのは、リミテッドエディションのベースとなっている2020年モデルのシビック・タイプRが、大きな変化を遂げていることだ。

その内容は主に冷却系への対策で、従来モデルのオーナーやチューナーからも指摘されていた、主にサーキット走行時における水温上昇に対しての回答だ。フロントグリル形状を改め、開口面積を+13%へと拡げた上で、ラジエター冷却フィンピッチを3ミリから2.5ミリへと縮小している。これにより、サーキットにおける最高水温が10度も落ちたという。

いっぽうグリル開口部の拡大によって失ったダウンフォースは、フロントバンパー下にあるエアスポイラーの剛性や形状を見直すことで対処。倒れ込みを防止するために、付け根の肉厚を増加している。車両がロールした際に地面と水平になるように、両サイドを下側に楕円に伸ばしているところもポイントだ。さらにサイドにはリブを追加することで、後方への風の回り込みを抑制しているという。

ポイントのふたつ目はブレーキの改良だ。従来品は純正ディスクローター面が熱によって外側に倒れ込む量が大きく、サーキットで使うとすぐにジャダーが出ることが多かった。僕自身、FK8型シビック・タイプRのチューニングカーをサーキットテストしている最中にその事象に遭遇したが、社外ブレーキパッドを使用していたとはいえ、数周でダメージを受けてしまう脆弱さが気になった。

そこで2020年モデルでは、従来の1ピースから2ピースのフローティングタイプへと変更。ローターの倒れ込みが少なくなるだけでなく、バネ下重量は2.54キロの軽量化も実現している。

そしてサスペンションの改良も行われた。アクティブ・ダンパーの制御をアップデートしたほか、フロントロアボールジョイントのテンパリング加工を行い、コンプライアンスブッシュに支持剛性を高める高減衰素材を採用。リアもロアBアームブッシュを高硬度化すると共に、トーイン量を増やして追従性を高めている。

外観に大きな変化はないが、徹底した軽量化も行われた

こうしたベースモデルの進化に加えて、リミテッドエディションではさらに専用パーツが奢られている。まずは軽量化に着手したことが目新しい。ダッシュボードアウター、フロントフェンダーエンクロージャー、ルーフライニング、リアインサイドパネルに存在していた防音材を廃止。これにより13キロの軽量化を実現した。

リミテッドエディションには、BBSジャパン社と共同開発された専用の鍛造ホイールを装着。サイズはベースモデルと同じだが、各部の形状にBBSならではのノウハウが凝縮されており、4本合わせて10キロもの軽量化を達成した。リムの厚みはベースモデルに対して-25%にもなるという。

ハブとホイールとの接地面形状にも拘っており、この部分の形状は良いものが見つかったため、ベースモデルのホイールにも展開されているとのこと。このホイールの装着もあり、ステアリングの切りはじめから車両がリニアに応答するようになった。クルマが小さく感じられるほど、剛性バランスの良さが伝わってくる。

タイヤはミシュラン製パイロットスポーツ・カップ2。走行後も綺麗に摩耗しており、Limited Editionのバランスの良さが現れている

タイヤはリミテッドエディション専用に開発されたミシュラン製パイロットスポーツ・カップ2が組み合わされ、合わせてダンパーチューニングも変更。減衰力はベースモデルの2倍近くまで引き上げられている。

こうして仕上がったリミテッドエディションを、いよいよ鈴鹿サーキットで試す。先導車付きの走行となるが、先導車をドライブするのはスーパー耐久シリーズにこのシビック・タイプRで参戦している本田技研工業の木立純一さんである。それに続くのは、他媒体の取材で来ていた山野哲也選手、そして桂 伸一選手という豪華なラインアップ。ペースは相当に速くなりそうだ。

なお試乗車両は日本仕様(右ハンドル)のリミテッドエディションだが、レーシングブルー・パールの先導車両は、欧州仕様の2020年モデル。タイヤのみリミテッドエディションと同じミシュラン製に交換されているので、走りの違いもじっくり見られそうだ。

超高性能であることは変わらないが、扱いやすさが大幅にアップ

走り出しはウォームアップも兼ねてのスロー走行だったため、まずはアクティブ・タンパ―の違いを感じてみることに。Rモードはかなり引き締められたイメージがあるが、縁石の乗り上げなどはうまくいなして収束している。

いっぽうコンフォートモードは、そこから一気に力が抜けるイメージで、快適性をうまく出している感覚があった。現行モデルはこのダンパーの恩恵により、初めて「街乗りでの乗り心地も満足できるタイプR」だと感じていたが、そのイメージは変わらない。メリハリが効いていて好印象だ。

最高出力320PSを発揮するK20C型2リッター4気筒ターボ。エンジン本体には変更はない

2周目からは、9割以上のペースで走って行く。各ギアでレブリミットまでキッチリとエンジンを回して行けば、ヘルメットを装着しているにも関わらずエンジンサウンドはダイレクトに感じられる。防音材の排除によって、かつてのタイプRのような荒々しさが見えてきたところは嬉しいポイントだ。

コーナーへアプローチすれば、明らかにリアの追従性が良く、ブレーキングによって自由に姿勢作りが可能になっており、軽快さが際立っている。クルマが軽く、そして小さくなったかのような感覚は、従来型のFK8とはまるで違う。

そんなリミテッドエディションに比べると、先導車両のFK8はクルマの向きを変える際にやや苦労しているように見え、リミテッドエディションの優位性を理解できた。

懸案事項だった冷却性能は、前走車のスリップにつきすぎると水温計のツブがふたつほど上がったが、わずかにラインを外しておけば問題はない模様。ブレーキについては、半日走った後にもう一度乗った際でも、ペダルタッチに変化は感じられなかった。

こうして地道に着実に進化を果たしたリミテッドエディションの仕上がりはホンモノだ。サーキットが本拠地といえるタイプRとして、相応しい内容となったことは明らか。約75万円のエクストラコストも納得できるといっていいだろう。

惜しむらくは、この究極ともいえる運動性能を味わえるオーナーはわずか200名の限られたオーナーのみということだ。我々が願えるとすれば、この灯を絶やすことなく、ぜひとも次期型シビック・タイプRの開発に繋げてほしいと祈るばかりである。

(photo:Yoshiaki AOYAMA 青山義明、text:Yohei HASHIMOTO 橋本洋平)

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2020 CIVIC type R Limited Edition
SPECIFICATION
□全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm
□ホイールベース:2700mm
□トレッド(F/R):1600/1595mm
□車輌重量:1370kg
□エンジン型式:K20C型直列4気筒DOHCターボ
□総排気量:1995cc
□ボア×ストローク:86.0×85.9mm
□圧縮比:9.8
□最高出力:320PS/6500r.p.m.
□最大トルク:40.8kg-m/2500-4500r.p.m.
□燃料消費率(国土交通省審査値):13.0km/L
□最小回転半径:5.9m
□サスペンション形式(F/R):マクファーソン式/マルチリンク式
□ブレーキ形式(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
□タイヤサイズ(F&R):245/30R20
□新車時車両価格:550万円(受注はすべて終了)
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