Honda好きが堪能できる、Hondaスピリッツ溢れる情報誌
  1. TOP
  2. NEW CAR
  3. 【ホンダアクセス】最後の特別仕様車、S660 Modulo X Version Zをサーキットで試す! 驚くべき扱いやすさと走りの質感

【ホンダアクセス】最後の特別仕様車、S660 Modulo X Version Zをサーキットで試す! 驚くべき扱いやすさと走りの質感

2015年3月に販売が開始された軽2シーター・スポーツ、S660。オープンエアを気軽に楽しめる存在として幅広い世代から人気を集めていたが、2022年3月末をもって生産を終了すると発表された。その理由は、先進安全装備や側面衝突など、今後の法規対応に備えるだけの開発費用をかけられないというのが主な理由だ。

S660に「最後の特別仕様車」として設定されたModulo X Version Z。価格は315万400円だが、すでに受注を終了

その8年間のモデルライフの最後を飾るべく発表された「S660 Modulo X Version Z」だったが、2022年3月末までの生産予定台数である2000台強はあっという間に完売。それを追うように、ベースモデルのS660(α、β)も2021年3月30日の時点でオーダーを終了。S660は、もう新車では購入できないクルマになってしまった。

今回は、3種類のS660をサーキットで試すメディア向け試乗会が行われた。ベースモデルのS660は一体どんな乗り味だったのか? そして純正アクセサリーとして用意されるホンダアクセスのModuloのアイテムを装着した車両は、どんな走りの性能アップを見せてくれるのか? さらに、コンプリートモデルのModulo X Version Zは、ベースモデルに対してどのような走りの進化があったのか? 改めて振り返ってみたい。

まず乗り込んだのは、ベースモデルであるS660 αの6MT車である。空力アイテムを一切持たず、素の状態でどんな限界性能を見せるのかを再確認する。今回は、全車ともスタビリティコントロールを完全オフにしてチェック開始だ。

走り始めてまず感じることは、64馬力という足枷が感じられるエンジン特性だった。7800回転からレッドゾーンとなるこのエンジンは、ブースト計を見ていると一目瞭然なのだが、6000回転あたりからブーストが落ち始める。そこからはトルク感が無くなり「回っているだけ」という感覚が強い。そのため結果として、6000回転を目安にシフトアップを繰り返したほうがタイムは速い。少しチューニングしてこの足枷を無くせば、かなり面白くなるのは明らかだ。

メディア向けに開催された今回の試乗会では、あえてコーナーの多くをウェット路面としていたこともあるが、コーナーに差し掛かるとS660のややナーバスな特性が見えてくる。フロントのロールスピードが速く、ペタンと沈み込む特性があり、クルマが対角で動きやすいのだ。そのためウェット路面で向きを変えようとすると、リアが唐突にリバースして行く。

スライド状態を安定させるためにスロットルを開けて行くが、対角で動きすぎたリアのイン側の接地は完全に抜けており、駆動が簡単に抜けてしまう現象が見られた。おかげでカウンターステアを一気に戻す必要があり、結果的に操りにくい部分がある。もちろん、スタビリティコントロールを復帰させれば、そこまでの動きにはならないのだが、それでは失速しすぎて面白みがない。そこをチューニングしたくなってくる。

ホンダアクセスが展開する”Modulo”ブランドの純正アクセサリーを装着したS660

そんなベースモデルの試乗を終え、次はホンダアクセスが展開するModuloブランドの純正アクセサリー装着車に乗り込む。純正アクセサリーとは、ホンダカーズで購入できる「オプション」で、サスペンションやブレーキ、ホイールといった脚まわりや、前後エアロバンパーやアクティブスポイラーをはじめとする外装パーツなど多岐に渡る。

なかでも人気アイテムであるModuloサスペンションは、減衰力調整機構を持たない固定式で、車高の変化(ローダウン)も無し。しかしModuloのフィロソフィである「四輪で舵を切る」という走りは、様々な路面に対して高い接地感をもたらし、スポーティな走りと上質な乗り心地を両立させるアイテムとして支持を集めている。

さっそく走り始めると、ベースモデルで感じられた車体の対角のロールは見事に収められており、安定感がかなり高まっている。より高いスピードでコーナーに突っ込んでもリアは破綻しにくい。これはもちろん「実効空力」コンセプトに基づき開発されたエアロパーツによるところも大きいのだろうが、4輪の接地感を感じながらジワリと動かせるModuloサスペンションの働きはなかなかのものだ。

例えスライド状態になってしまったとしても、リアの接地の抜け方は穏やかであり、アクセルコントロールもきちんと効く。サーキットを走ろうというのであれば、最低限これくらいの安定性は欲しいよな、というところを上手く作り出している感覚だ。

Modulo純正アクセサリー装着車に続いては、いよいよS660 Modulo X Version Zである。最後の特別仕様車として設定されたS660 Modulo X Version Zだが、走りに関する部分は従来のS660 Modulo Xと変更はない。するとピットアウトして1コーナーを駆け抜けただけで、その良さはハッキリと伝わってきた。

ステアリングにはドッシリとした重みと接地感が伝わり、フロントがきちんと路面を掴んでいることが理解できる。電動パワーステアリングの設定は変更していないとのことだったが、それをチューニングしたかに思えるほど、ベースモデルとも純正アクセサリー装着車とも違うフィーリングがあるのだ。

いっぽうリアの接地感の高さもハンパではない。フロントから流れる車体下部の空気をシッカリとリアまで綺麗に流し、テールを安定させようとするその仕上がりは、空力でここまで違うのかと驚くほどの仕上がり。軽自動車とは思えぬ安定感がそこにある。

今回は、このS660 Modulo X Version Zだけスピードリミッターを解除していて、他の2台とは違うスピードレンジで袖ケ浦フォレストレースウェイの3〜4コーナーに飛び込めるシーンがあったのだが、そこでも安定感は相変わらず。少ない修正操舵でコーナーを駆け抜けられる仕立てには驚いた。無駄なく走れるその仕上がりはアッパレ。ウェット路面で意図的にスライド状態に持ち込んだとしても、恐怖感なくジワリとコントロールできる懐の深さも魅力的だった。

ストイックに走りに没頭したいのであれば、やはりModulo X Version Zは魅力的だ。6MT車のみの販売と割り切ったのも頷ける。このクルマのオーナーになれる人は、是非ともサーキットで試して欲しい。そこで真価を発揮するのは間違いないのだから……。

(photo:Satoshi KAMIMURA 神村 聖 text:Yohei HASHIMOTO 橋本洋平)