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【試乗記】ファイナルモデル「NSXタイプS」登場! 第2世代NSXが示したハイブリッドスーパースポーツの未来とは

NSXには初代・第2世代を通じてひとつの共通点がある。それはスーパースポーツ・カテゴリーの競合他車に対して、明らかな思想的アドバンテージを備えたモデルという点だ。初代NSXの誇るオールアルミ製モノコックボディや、「スポーツカーといえば3ペダルMT」が主流だった時代にあえて設定した2ペダルATなどは、のちにスーパースポーツの主流となった。

そして2016年に登場した第2世代NSXは、優れた環境性能も備えたオールラウンド・スーパースポーツとして、3モーター式ハイブリッドシステムや最新の全輪駆動システムSH-AWDを搭載している。そんな第2世代NSXの最終進化版「NSXタイプS」を、ホンダの誇るテストコース、鷹栖プルービンググラウンドで堪能した。

(Honda Style 105号/2022年3月発売号に掲載)

NSXやS2000といった歴代スポーツモデルが走行テストを重ねた「鷹栖プルービンググラウンド」で、NSXタイプSの走りも磨かれた。試乗会場には2004年式NSXタイプSと2019年式NSXも展示され、まさにホンダスポーツの故郷といった雰囲気だった

次世代を見据えたスーパーカー

NC1型NSXの最終進化版であるタイプS。全世界350台限定で、うち日本仕様は30台

北米で1653台、日本で464台、その他の国や地域で441台、合計して2558台。これは2021年7月まで、つまり生産終了を発表した時点での第2世代NSX[NC1]の販売台数だ。そこにタイプSの350台(うち、日本は30台)が加わるから、2900台余りがNC1型NSXの総販売台数ということになる。

これが多いとみるか、少ないとみるかは人それぞれだ。似たような数のクルマとして、イメージの掴みやすいところでは、ランボルギーニ・ディアブロが挙げられる。しかし第2世代NSXの生産能力的には年に1500台程度を見込んでいたことを考えると、当初の事業計画には遠く及んでいないのは確かだ。

エンジン本体にも手が入り、システム最大出力は610PSにアップ。トランスミッションや駆動システムも見直された。車両価格は2794万円(10%税込)

NC1の型式を持つ第2世代NSXが発売されたのは、2016年のこと。市販化を前提とした、最初のコンセプトモデルが披露されたのは2012年のデトロイト・オートショーに遡るから、それは今から10年以上前の出来事になる。

世の中的には、スポーツカーの電動化はKERSに代表されるレーシングシーンに留まり、公道用車両としてはハイブリッドのポルシェ918スパイダーが発表されたのみ。しかもそれは、60万ユーロはくだらない特別な限定車だ。そしてNC1型NSXの発表後に続いたマクラーレンP1やラ・フェラーリなども、上得意向けに「億」の値札を下げる限定車だった。

NC1型NSXは2016年より販売受付を開始し、翌年からデリバリーが開始された。ボディカラーは全8色で、内装色は4色から選択が可能。価格は2370万円(8%税込)

第2世代となったNC1型NSXは、スポーツカーの電動化と民主化に先鞭をつけただけではない。そのハイブリッドシステムに大きな特徴があった。それは後輪側だけではなく前輪に2つのモーターを配した3モーターで構成され、前左右輪を電気的に差動させることで今までにない旋回能力を引き出そうというものだ。

ホンダは、2004年に4代目レジェンドへSH-AWDを初搭載。続く5代目では、後軸をふたつのモーターで差動させる3モーター式スポーツハイブリッドSH-AWDへと進化させた。NC1型NSXはこの技術を継承しながら、効率とともにミッドシップスポーツとしてのスタビリティとアジリティを、どこまで高度に両立できるかを突き詰めたわけだ。

NC1型NSX最初のマイナーチェンジとなった2019年モデル(2018年10月発売)。リアまわりを中心に大幅なアップデートが実施され、電子制御システムも見直された。外装色にサーマルオレンジ・パールの外装色が追加設定された。車両価格は2370万円で変わらず

発売当初のNC1型NSXは、モーターの介在する新しさや難しさが端々に感じられる仕上がりだったことを覚えている。象徴的なのはローンチモードで、2000回転余の低回転域からクラッチミートするにも関わらず、モーター側のトルクでエンジン側のパワーバンドへと一気に車体を押し込んでいく直線的な加速感は、従来のスポーツカーでは感じられない新鮮さだった。

いっぽう山坂道を走れば、パワートレインのレスポンスに対する操舵フィールの緩さや、カウンターステア領域での前輪駆動制御との連携などに、このシステムを手懐けることが一筋縄ではないことが垣間見えた。

新色インディイエロー・パールⅡが設定された2020年モデル。初代NSXのインディイエロー・パールをオマージュし、クリアで鮮やかな発色へと進化した。消費税が10%となり、車両価格は2420万円(税込)

その後、開発体制の変化に伴って車両の運動特性が見直された結果を踏まえ、ハードとソフトの両面から手が加えられたのが2019年モデルである。リア軸まわりの剛性向上、それに合わせたスタビライザーレートや可変ダンパー制御の見直し、そして駆動制御の変更などによって、その振る舞いはドライバーの意に沿った自然なものとなった。

2019年モデル以降のNSXに開発責任者(LPL)として携わる水上 聡 氏。これまでもホンダ車のダイナミック領域を広く担当しており、スポーツモデルにおいては「ドライバーの意思に忠実である」ことを何よりも重要視する

この2019年モデルを開発するにあたってNC1型NSXの開発主査を受け継いだのは、ホンダの車両のダイナミクスを統括してプロデュースする立場にあった水上 聡氏である。着任から時間のない状況で車両の特性を掴み、市販車としての信頼や耐久要件を担保しながら、『できるところに片っ端から手を入れた』と仰っていたことを思い出す。

そして水上さんは、この2019年モデルの開発を通じて、NC1型NSXのエボリューションモデルにまつわる構想が既に思い浮かんでいたという。そんな話を聞いたのは、このタイプSの発表会の席上だった。しかしそれは同時に、NC1型NSXの終焉も告げられるという、なんともやるせないタイミングとなった。

NSXの道は未来へ繋がっていく

NSXタイプSのボディカラーは全10色。そのうちタイプS専用色のカーボンマットグレー・メタリックを含む7色は有料塗装色となる

北海道の旭川にある鷹栖プルービンググラウンドで僕を迎えてくれたNSXタイプSは、専用色となるカーボンマットグレー・メタリックを纏っていた。全世界で70台限定、日本仕様30台のうち10台にこの色が割り当てられている。

NSXタイプSは、カーボン製フロントスポイラー/リアディフューザー/サイドシルガーニッシュがセットになった『カーボンファイバー エクステリアスポーツ パッケージ』を標準装備される

精悍な印象を与えるのはボディカラーだけが理由ではなく、空力特性や冷却性能の向上を織り込んだ専用意匠のバンパー、そしてホイールのインセットを違えてのワイドトレッド化による、しっかりしたスタンスによるものだろう。

タイプS専用の前後バンパーを装着するなどして、より精悍さがアップ。前後とも先端が伸ばされた

形状が一新されたグリルやリップスポイラーによって、前方からの空気の流量や流速を高め、後ろ側の大型化されたディフューザーへと効率的に導き……と、タイプSは床下面を中心に空力特性を大きく改善している。

現車は未装着だが、従来から設定のあるカーボンファイバー リアデッキリッド スポイラーがオプション設定される

オプションでは控えめなリアスポイラーも用意されるが、これを装着すると並の速度ではテールが安定しすぎるくらいだというから、その効果はスタビリティにしっかり現れているのだろう。

ミッドシップマウントされる3.5リッターV6ツインターボ。従来モデルに比べて最高出力で+22PS、最大トルクは+5.1kg-mを実現した

75度バンクを持つ3.5リッターV6ツインターボは、ガソリン・パティキュレート・フィルターの装着を必須とする欧州仕様の高耐熱型小径タービンを巧く活用して、過給圧のピーク値を5.6%向上、それに合わせて直噴とポート噴射を併用するインジェクターの吐出量をピーク値で25%増強するなど、パワーとレスポンスの両面を高めている。

インタークーラーはフィンピッチを狭めて高密度化し、冷却性能を15%アップ。これらによって、エンジン単体での出力は22PS/50N・m向上された。

モーター側は前軸のツインモーターユニットのギア比を20%ローギアード化して瞬発力を高めたほか、駆動用バッテリーは充放電時の余剰なマージンを削って出力を10%、使用容量を20%アップ。これによりモーターのアシスト力を高めるとともに、EV走行のカバー領域も拡大している。

タフなコースをモノともせず、張り付くように回り込んでいく

久しぶりに走る鷹栖プルービンググラウンドは、激しい寒暖差にも虐められてだろう、生々しい段差やヒビ割れがあちこちに見られた。当然ながらピカピカに補修することも可能だが、こういう活きた道がクルマを鍛えるという面からみれば、これはホンダのひとつの財産といえる。このタイプSも、コロナ禍で渡航もままならないなか、ニュルではなく「鷹栖」が開発の中心地になったという。

アクティブダンパー・システムは、NSXタイプS専用セッティング。TRACK/SPORT+/SPORT/QUIETの4つの走行モードで、いずれも従来モデルを上回るパフォーマンスを発揮する

走り始めてすぐにわかるのが、走行時のモーター介入幅がはっきりと広がっていることだ。ハイブリッドモードのEV走行時間も、加速時のトルクの上乗せぶりも、従来を大きく上回る。充電状況によっては、いかにもハイブリッドといった新鮮な駆動感覚がたっぷりと味わえる。

タイヤはNSX専用のPIRELLI製P-ZEROで、サイズはF:245/35ZR19、R:305/30ZR20。ホイールはタイプS専用設計で、インセットを変更することによりF:10mm、R:20mmのワイドトレッド化を実現。コーナリング時の安定性アップに寄与している

しかしそれは、タイプSの副次的な魅力だろう。もっとも感心させられるのは無駄な挙動を徹底的に廃し、滑らかな中に精緻さや高解像ぶりがビシビシと伝わってくるそのドライバビリティだ。

BWI製のマグネライドダンパーは減衰特性を全域で見直し、特にリバンプ側の動きをしっかり抑え込んだというが、その効果は場所によってはニュルよりも大きな入力が加わるという、鷹栖のタフなコースをべったりと張り付くように回り込んでいく、その動きの異質さからもみてとれる。

メーターパネルやセンターコンソールの形状はベースモデルと同じ。しかし各所にレッドステッチを採用するなどにより高級感がアップした

ドライブモードはスポーツとトラックとで、ベースモデル以上にその対比を明確なものにしている。端的に言えば、連続的変化というよりハンドリングキャラクターの違いを愉しむようにチューニングされており、前輪のベクタリング効果を際立てたのがスポーツであるのに対して、四輪の駆動バランスを重視して徹底的に正確な応答性をみせるトラックという印象だ。

ヘッドレスト一体式のシートは、NSXのロゴが刺繍される専用タイプ。大柄だがサポート製に優れる

山坂道では、スポーツやスポーツプラスのくるりと回り込むような回頭性が、トラックではコーナーのインへと巻き込んでいくような、粘り強い動きがポイントとなる。いずれもモーターによる高応答・高精細な四駆というメカニカルな特性を活かしての特有な動きだ。

トランスミッションは9段DCTのみ。2020年モデルまでは1段ずつの減速だったが、タイプSでは、新たに「パドルホールド・ダウンシフト」を採用。左側の減速側パドルを0.6秒長押しすることで、瞬時にもっとも低い最適なギアポジションに変速が可能となった。

パワートレインのシームレスぶりや、特別なハンドリングを戸惑わせず愉しませる点など、NSXタイプSは「第2世代としてやりきった」という印象を、ドライバーに抱かせてくれる。

NC1型NSXが見せようとした世界は、ホンダスポーツの未来に繋がる

今後の自動車開発において、『モーターをいかに活かしていくか』は、スポーツカーカテゴリーにおいても重要なポイントになってくるだろう。ホンダがNC1型NSXの開発・熟成を通じて得た知見は、この先のスポーツモデルにも間違いなく大きな影響を与えるはずだ。

残念ながら第2世代のNSXはその幕を下ろすことになるが、かつての初代NSXと同様にいずれ再評価されるときが来るだろう。そしてNC1型NSXが我々に見せようとした世界が、未来のホンダスポーツに繋がっていくことを信じたいと思う。

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NSX Type S
SPECIFICATION
□全長×全幅×全高:4535×1940×1215mm
□ホイールベース:2630mm
□トレッド(F/R):1665/1635mm
□最低地上高:110mm
□車両重量:1790kg
□乗車定員:2名
□パワートレイン型式:V型6気筒DOHCツインターボ+3モーター
□ボア×ストローク:91.0×89.5mm
□総排気量:3492cc
□圧縮比:10.0
□エンジン最高出力:529PS/6500-6850r.p.m.
□エンジン最大トルク:61.2kg-m/2300-6000r.p.m.
□モーター最高出力(前):37PS/4000r.p.m.(1基あたり)
□モーター最大トルク(前):7.4kg-m/0-2000r.p.m. (1基あたり)
□モーター最高出力(後):48PS/3000r.p.m.
□モーター最大トルク(後):15.1kg-m/500-2000r.p.m.
□使用燃料:無限プレミアムガソリン
□最小回転半径:5.9m
□サスペンション型式(F/R):ダブルウィッシュボーン式/ウィッシュボーン式
□タイヤサイズ(F/R):245/35R19/305/30ZR20
□車両本体価格:2794万円(受注はすべて終了)
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(text:Toshifumi WATANABE 渡辺敏史、Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)