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【Vintage Honda】自動車の基本となる「修理」と「整備」を、次世代への継承を目指すS600再生プロジェクト!

長年にわたり、地域ユーザーとホンダ車の架け橋を担ってきた“ホンダカーズ川越”の、若手サービススタッフによる原点回帰ともいえるプロジェクト。脱炭素の加速を筆頭に、様々な環境の変化により大きな転換期を迎え、今後さらなる激しい変化が予想される自動車業界。そうしたなか、共に歩んできた自動車の原点を再考、検証することで大きなヒントが見つかるはずだ。

(Honda Style 103号/2021年9月発売号に掲載)

名車「エスロク」の再生に若きスタッフたちが挑む

筆者にとって旧知のクルマ趣味の仲間である君嶋洋一さんから、『弟が勤めているホンダカーズで、S600のレストアを始めたんだ』という話を聞いたのは、今年の春先のこと。そして君嶋さん自身もレストア作業のアドバイザーとして、毎週金曜日には作業場へと足を運び、部活動の顧問の先生のように、レストア作業のアドバイスを行っているという。

そこでさっそく、毎週金曜日の夕方からS600のレストア作業を行っているという『ホンダカーズ川越』を訪ねると、グループを統括している代表の山田美行さんと、今回のプロジェクトチームのLPL的立場である細井サービス課長が出迎えてくれた。

ホンダカーズ川越を運営する株式会社ホンダプロモーションは、1968年に創業。現在は新車販売店舗が6拠点、認定中古車を取り扱うUセレクト店舗を1拠点で展開。半世紀以上にわたり、この地域におけるホンダ・オーナーのサポートを続けている。

そんなホンダカーズ川越にて、発売から半世紀以上が経過したヒストリックカー・S600のレストアプロジェクトが開始されたことは、一体どのような経緯があったのだろうか?

クルマのレストア作業を通じて育まれる経験こそが財産

作業開始当初は、ボディのサビ落とし作業には戸惑っていたというサービススタッフたち。通常業務では、赤サビのある車両など皆無だろうから当然だろう。チッピングコートを落とす作業では、それぞれが使いやすい道具を持ち込むなど対応していた

山田:「様々な環境が変化していくなかで、自動車産業はもっとも大きな転換期に直面していると感じています。そうした時代に、この先の未来を切り拓いていくサービススタッフを育成するためには、何が必要なのかを考えました」

ホンダカーズ川越を率いる山田美行さんは、そのように話してくれた。同社は創立50周年を超える長い歴史を持つ企業だが、EVを始めとする次世代自動車の比率が年々高まっていくなか、次世代自動車への対応はもちろん、さらなるサービスの高みを目指すべく模索していたという。

現在のボディカラーであるイエローは、純正色ではなく以前に全塗装が行われたもの。オリジナルカラーは赤だったようだ

今後は日常的業務にも関わりが増えるEVの知識習得は当然とし、自動車の原点ともいる、本質的な『走る・曲がる・止まる』を再考するには、機械部品のみで構成された、電子部品の無い時代のモデルを再生する体験が必要と考えた。

細井:「その体験から得られた応用力により、お客様に満足して頂ける問題解決力や、提案力といったサービススタッフとしての可能性を、今まで以上に拡げられるのではないだろうかと思ったのです」

ピラー下やフロアの腐りもなく、ベース車のコンディションとしては悪くない状態だ

ヒストリックカーを再生する。その作業工程自体は、時代とは逆行することかもしれない。しかし作業の過程における学びは、サービススタッフの糧となるだけでなく、自信と、やりがいに繋がるだろう。また技術育成だけではなく、他店舗のスタッフ同士で協調しての作業は、通常の業務とはまた違った達成感や、自らの成長の確認などに、より有効に作用するはずだ。

そんな想いから、作業体験の題材として選んだのはホンダS600だった。ホンダにとって初めての量産スポーツカー・シリーズであり、販売店でも主力の存在であった名車を再生するプロジェクトが決まった。各店舗の工場長や店長による人選が始まり、7つある店舗からは、入社3年目という23歳から最年長でも39歳という若いサービススタッフが選抜された。

このメンバー全員にとって、S600は自身が生を受けるよりもはるかに以前のクルマである。S600の存在は、ほとんどが知らない。もしくは知っていても、このプロジェクトが始まってから初めて実車を見た、といった世代である。

「部品が旧すぎて、元々どの程度のものだったか? 部分の検証も分からないことなので、日々考えることが多い」

「整備士になる前から、レストア番組が好きでよく観ていたが、今回のプロジェクトで実際に自分が作業を始めてみると、番組での手際の良さに驚くと同時に、本当に動くようになるのだろうかと思えた」

メカニカルな整備作業を行うメンバーからは、こんな感想が聞かれた。もちろんキャブレターの構造といった基本知識は、整備士の資格を取得した時点で理解している。しかし物心ついた頃から、身のまわりにはデジタル製品が溢れていたプロジェクトチームメンバーの年代では、学生時代の授業でも整備士としての実務でも、初体験のことばかりだったという。

日に日に成長していく若きスタッフたちの可能性

そうしたことに戸惑いながらも始まったプロジェクトチームは、毎週金曜日になると2カ所に設けられた作業場へと集まってレストアを行う。公道への復帰を目指した再生作業も、すでに半年以上が経過した。置き場から作業場へ『よいしょ』とボディを運び込み、リフトへと載せる一連の動作は慣れたものだ。

本日の作業は、一度再塗装された時に塗布されたものと思われる、下部へと吹き付けられたチッピングコートの除去作業である。ボディは塗装とサビを除去するために外注作業となるが、ブラストによる処理を行う予定だ。しかし弾力のあるチッピングコートに対しては、ブラストが効かないために手作業で行う。それぞれの作業部位により、使用する道具も違ってくるのだが、メンバーは効率よく作業を進めていく。

今回のレストアプロジェクトでアドバイザーを務める君嶋洋一さんは、レストアプロジェクトの開始直後こそ不安を感じたというが、作業開始から半年が経過し、そんな心配も薄れてきたと語る。

「若いメカニックたちは、普段の業務を見ていると、しっかりと責任を持ってテキパキやっている。ただ自分たちが知らないクルマになると、指示をしてあげないとなかなか作業ができなかったんだよね」

そうボヤいていたことも、今では懐かしい。サビまみれになったパーツを磨くなど、日常の整備業務ではあまり出会わない作業であるから、それも当然だ。しかし奮闘する若いメンバーの姿を、サービス課長の細井さん、そして和光254店の君嶋店長は暖かく見守っている。ふたりとも以前はサービススタッフとして働いていたから、若いスタッフに過去の自分の姿を重ねているのかもしれない。

「最初はおっかなびっくりだった作業も、今は自信を持って進められます」

ホンダカーズ川越・三芳店では、新車の作業場の一部を、今回のプロジェクトのための占有作業場とした。これだけでも、ホンダカーズ川越の取り組みの真剣さが理解できる

「レストア作業が、現在の実務にすぐ生かされるかは分からないが、通常業務の作業をする上で選択肢となることや、ヒントはたくさんあると思う。そうした自身の応用性に活用できそうだ」

「各グループ店の顔見知りであった関係が、レストア作業を通じて、気持ちの共有などにより深まることで、仕事の意識の向上に繋がった」

内燃機加工されたシリンダーヘッドは、シムを使ったクリアランス調整済み

「アッセンブリーの交換作業だけではなく、中身がどうなっているかを理解する必要がある。年長者である自分は、そうした時代の経験があり、今後は教えて行く立場でもある。経験の少ない若い世代にも学ぶ機会が生まれたのと、世代による考え方の違いも発見できたことは、このプロジェクトの副産物であるし、お互いの理解にも繋がる」

「初めて見るチェーン駆動や、スイングアームなどの機構が面白い。自身で分解すること、機能を理解することにより、面白さが増してきた」

「分解作業も、それが正しいかは分からないけれど、同僚たちの方法にヒントとなるものがあった。これから組み上げ作業においても、同様の発見があるだろうと思うと楽しみ」

作業を担当したメンバーの言葉からは、様々な困難にぶつかりながらもそれを楽しんでいる様子が伺えた。今後も予期せぬトラブルはあるだろうし、完成までの想像がつかない作業への不安は多いだろうが、こうした前向きな姿は非常に頼もしく思える。

フレームはサビを除去したが、メンバーに切開の跡があり、これから再度検証する予定とのこと

彼らにとって未知のクルマを、楽しみながら作業している若いサービススタッフたち。ヒストリックカーのレストアという専門外の業務に今は苦労をしているが、弱音を吐かず真剣に向かい合っている姿は、ここで得た経験がメカニックとして飛躍させてくれるという確信があるからだろう。

「完成したら、ぜひ乗りに来てくださいね」

取材を終えると、プロジェクトメンバーが口々にそう声をかけてくれた。自分たちの作業に、すでに自信を持ち始めている証といえるだろう。若きスタッフの作り上げたS600の完成が、今から楽しみである。

(photo&text:Junichi OKUMURA 奥村純一)

S600レストアプロジェクト顧問 君嶋洋一さん

本田技術研究所に入社後、燃料シーケンシャル噴射の開発に携わる。その後は知的財産部に所属し、定年退職を迎えるまで勤め上げた。会社員時代から、MGミジェットやフェラーリ308、ロータス・ヨーロッパ、ポルシェ911など、様々なクルマの再生作業を趣味として楽しむ。現在はN360のレストアを行っているが、その理由は君嶋さんが高校生の頃、狭山工場でアルバイトをしていた当時の主力生産車だから。当時の自分を想い出させてくれるN360の完成も間近だそう。弟の浩さんが、ホンダカーズ川越・和光254店で店長を務めているという縁もあり、今回のプロジェクトチームに参画。若きスタッフへのアドバイザーとして、暖かくも厳しく支えている。

SPECIFICATION
1966 S600
□全長×全幅×全高:3300×1430×1200mm□ホイールベース:2000mm□エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC□総排気量:606cc□圧縮比:9.5□最高出力:57PS/8500r.p.m.□最大トルク:5.2kg-m/5500r.p.m.□変速機:4速MT□燃料タンク容量:25リットル□ブレーキ形式(F&R):油圧式リーディング・トレーディングシュー方式□サスペンション形式(F/R):トーションバースプリング独立懸架式/コイルバネ独立懸架式□タイヤサイズ(F&R):5.20-13-4PR