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【開幕戦レポート】無観客レースをスコット・ディクソンが制す。佐藤琢磨は予選クラッシュで決勝レースに出走できず

新型コロナウィルスのパンデミックにより、3月に開催予定だった開幕戦セントピーターズバーグがキャンセルされたインディーカーシリーズが、予定より3ヶ月近く遅れた6月6日、テキサスでのナイトレースで開幕した。

レースディスタンスは248周(600km)から200周(300マイル)に短縮され、プラクティス、予選、レースを土曜日1日に行う1デーイベントとすることで出場者同士やレース運営スタッフらの接触時間を短くし、スタンドにファンを入れない無観客レースとしての開催だった。

無観客レースとなった開幕戦。誰もいないスタンドの前をインディカーのマシンが走る

全長1.5マイルのオーバルコースでのレースは、気温が摂氏30度という暑さの中、24台のエントリーを集めて行われた。前代未聞の状況下で行われたレースは、新しい安全装備であるエアロスクリーン装着での初めてのものでもあった。そして、この歴史的レースのウィナーには、5回のインディカータイトル獲得歴を誇るスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)が輝いた。

予選2位だった彼は、200周のうちの157周をリードする圧倒的パフォーマンスでキャリア47勝目(AJ・フォイトの67勝、マリオ・アンドレッティの52勝に次ぐ歴代3位)、テキサスでの4勝目を記録。16シーズン連続での勝利はシリーズ最多の更新で、18シーズンでの勝利記録で”ミスターインディ”とも呼ばれるフォイトに並びもした。

2020年の開幕戦を優勝で飾ったスコット・ディクソン。表彰セレモニーではクルー全員がマスク着用、ソーシャルディスタンスを保って写真撮影

「特異な状況に世の中がある中、レースが行えたことに感謝している。今日こうして勝てたことは本当に嬉しいが、ファンとともにこの喜びを分かち合いたかった。マシンはプラクティスの走り出しから速かった。シミュレーターを使っての準備が大いに役に立った。今日ほど素晴らしいマシンを手に入れられるなんて、滅多にあることじゃない。チームに関わる全員に感謝する」

レース後のインタビューで、スコット・ディクソンはこう語った。

3月から全米ほぼ全ての州で外出禁止令が出されていたため、今回のレースにファイアストンは予定していた新スペックのタイヤを用意できなかった。およそ30kgもあるエアロスクリーンを装着することで、今年のインディーカーは重心高が上がり、重量配分が前方寄りに変わっている。タイヤにかかる負担は昨年までより大きくなっている。

インディカー参戦2年目を迎えたフェリックス・ローゼンクビスト。エアロスクリーンを装着した2020年マシンに乗り込む

それに対応して新スペックのタイヤが投入されるはずだったが、インディ500用のストック品などを使うしか方法がなかった。テキサスのバンクは最大24度と急で、レースは最高速度が220mph(約352km/h)を越えるハイスピードでの連続周回。タイヤにかかる大きなストレスは他のコースより大きいため、今回の特別ルールにより、グリーンフラッグ下で1セットのタイヤでの連続走行が最大35周に制限された。

それでも勝負の鍵を握っていたのはタイヤの摩耗だった。インディカーは満タンでテキサスのコースを60周ほど走れるが、35周という短いスティントでもタイヤの減り具合にチーム間で明らかな差が生じていた。タイヤに優しいマシンセッティングで抜きん出ていたのがガナッシ勢で、ペンスキー勢を上回るスピードを見せたチームがガナッシ以外にも複数あった。

2位は昨年のインディ500ウィナー、シモン・パジェノー(チーム・ペンスキー/シボレー)のものとなった。予選3位からスタートした2016年チャンピオンは、ピットストップで順位を落とした時もありながら、ゴール前の2スティントを短くする作戦でタイヤの摩耗によるラップタイム低下を防いだ。そのレース終盤にマシンのハンドリングを良いものとできていたこともプラスに働いていた。

3位は昨年2019年に2度目のシリーズチャンピオンに輝いたジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー/シボレー)。テキサスで昨年勝っている彼は、幸先よく予選でポールポジションを獲得したが、レースではタイヤの摩耗によりスティント後半に大きくペースダウン。序盤にディクソンにトップを奪われ、ピットストップで前に出たというのにコース上での2度目のパスを許した。

さらに彼は、フェリックス・ローゼンクビスト(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)、チャーリー・キンボール(AJフォイト・エンタープライゼス/シボレー)、ザック・ビーチ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)にも抜かれた。3位フィニッシュは、パジェノー同様のゴール前のスティントを短くする作戦が当たってのものだった。

インディカー参戦2年目のローゼンクビストは、予選9位からレースのほぼ半分を使ってペンスキー勢をパス。2位へと浮上した彼は、先輩チームメイトとの優勝争いをするかに見えたが、ゴール前10周でクラッシュした。逃げるディクソンに引き離されるのを嫌って、周回遅れのマシンにアウトからオーバーテイクを仕掛けた彼は、タイヤカスに乗ってスピンした。確実と見えていた2位を逃したアクシデントとはなったが、若さや経験不足によるミスと否定的に見るより、優勝を獲りにいった果敢な戦いぶりを評価したい。

ペンスキー及びシボレー陣営とすれば、開幕戦がガナッシとホンダの1-2フィニッシュとなることは避けられた。4位は予選も5位と良かったビーチで、その後ろは今年もオーバルレースのみに出場するエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング/シボレー)で、彼は予選13位からのトップ5入りとなった。ルーキーの最上位は、昨年度インディライツ・チャンピオンのオリバー・アスキュー(アロー・マクラーレンSP)による9位だった。

昨年のテキサスでニューガーデンと激しい優勝争いを演じたアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)は、予選8位だったがスターティンググリッドでエンジンがかからず周回遅れに陥り、優勝戦線から脱落。ピットスピード違反のペナルティも受け、レース結果は15位だった。予選4位だったライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)もグリッドでエンジン始動に手間取ったが、こちらは周回遅れも挽回しての8位フィニッシュと素晴らしい挽回劇を見せた。

佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、開幕戦の決勝レースを走れなかった。昨年のテキサスでポールポジションを獲得している琢磨選手は、今回のプラクティスで6番手につけていた。

マシンの仕上がりは上々のように見えていたが、予選アタックへと加速するウォームアップラップの2周目にクラッシュした。ターン1で僅かながら走行ラインがアウト側に寄ったとき、突如としてタイヤのグリップが失われたようだった。

チームは即座にマシンの修復に取り掛かったが、予選から決勝までのインターバルが2時間と短く、スタートにマシンが間に合わなった。

「レースに出場できずファンの皆さんに申し訳ない。予選で起きたことは、どうしてそうなったのか理解するのが本当に難しい状況。まだ計測前のウォームアップラップで、スピードを上げてマシンを感じている時だった。8ヶ月も待っていたレースだったのに、さらに3週間待つことになのだからとても残念。3週間後のレースに、もっと強くなって戻って来るつもりです」

24位で6ポイントを稼ぐにとどまった佐藤琢磨選手はこうコメントした。そのシリーズ第2戦は、インディカーの故郷、インディアナ州インディアナポリスで開催されるGMRグランプリ。アメリカの独立記念日である7月4日(土)、インディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースを使って開催される。

(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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