Honda好きが堪能できる、Hondaスピリッツ溢れる情報誌
  1. TOP
  2. NEW CAR
  3. ARCHIVE
  4. 【無限】幻となった市販化前提のコンプリートカー『MUGEN NSX proto』が復活! 拘り抜いた細部を徹底紹介!!

【無限】幻となった市販化前提のコンプリートカー『MUGEN NSX proto』が復活! 拘り抜いた細部を徹底紹介!!

市販車向けアフターパーツの開発・販売に始まり、モータースポーツにおけるマシン開発やメンテナンスなど、ホンダとは密接な関係にある「無限」。パーツ販売以外にも、FD2型シビック・タイプRをベースとしたMUGEN RR、CR-ZベースのMUGEN RZ、そしてS660をベースとしたMUGEN RAといったコンプリートカー・シリーズの製作でも知られているが、じつは1990年代前半に製作された「幻のコンプリートカー」が存在した。

MUGEN RRより約15年も前に、市販化を見据えて開発されたのがMUGEN NSX protoである。2台制作されたMUGEN NSX protoのうち1台は、現在長い眠りから目覚め、いつでも走行可能な状態にある。

国産初のスーパースポーツをベースにしたリッター100PS超の究極NSX

ホンダ車用アフターパーツメーカーとして、またモータースポーツにおいて多大な功績を誇るパートナーとして、ホンダとは切っても切れない関係にある「無限」。1992年からは「無限ホンダ」としてF1にも参戦するなど、幅広い活動を行っている。

モータースポーツの最高峰であるF1への参戦を後押ししたのは、ホンダが第二期F1参戦プロジェクトを終了したことや、バブル景気の残り香が世間に漂っていたこともあるが、なにより無限社内には、若いエンジニアの燃えるような情熱が充満していたことが最大の要因だろう。

そんな熱い時代に製作されながら、残念ながら陽の目を見なかったプロジェクトがある。それが「MUGEN NSX proto(無限NSXプロト)」だ。

ホンダが1990年に発売したNSXは、市販車両としては久しぶりの後輪駆動車であった。圧倒的な高剛性を誇るオールアルミ製モノコックボディに、最高出力280馬力を発生する3リッターV6エンジンをミッドシップに搭載。国産初のスーパースポーツ・NSXの登場は、ホンダ車用アフターパーツ開発を手がける無限のスタッフにとっても、心躍る出来事だったことは想像に難くない。

それを裏付けるかのように、NSX用マフラーやエキマニなどアフターパーツが開発されるいっぽう、社内ではNSXをベースとしたコンプリートカーの製作がスタートしていた。自社製パーツをフル装着するのではなく、車両全体のデザインや走りの味付けをトータルコーディネートした究極のNSX、それが「MUGEN NSX proto」である。

MUGEN NSX protoは、無限初のコンプリートカーとして2台が開発・制作された。ショー展示やクローズドコースでの走行を念頭においた、ハードチューン仕様の「ブルー」と、ストリート仕様を前提とした「レッド」の2台である。

しかし残念ながらMUGEN NSX protoは市販モデルが登場することはなく、ショーカーとしても長らく表舞台からは消えてしまった。いわば「幻のNSX」となり、残念ながらブルーの車両はすでに存在していない。しかしレッドのボディを持つ車両は現存しており、先日にレストア作業を終え、現在は新車のような輝きを放ちながら公道走行も可能な状態まで復活している。

デザインと空力性能を追求すべく、エアロは1/5スケール風洞で開発

ベースとなっているのはNA1型NSXの初期モデルで、全体のフォルムはベース車の面影を感じさせるが、外装パーツはルーフおよびトランクフード、左右ドアを除いてすべて交換されている。エアロパーツ開発にあたっては、1/5スケールモデルを製作して風洞実験を重ね、デザインと機能の両立が追求された。

ヘッドライトは固定式へと変更されたものの、灯火類はすべて純正パーツをそのまま使用。フロントのポジション&ウインカーレンズは、左右を反転させ使用している。というのも当時の法規制は現在よりもかなり厳しく、車検対応を考えたためだそう。

無限エンブレムとHマークがタテに並ぶデザインは当時からの仕様だが、現車のHマークは中期モデル以降の中抜きタイプに変更されている

フロントフードはカーボン製で、NSX-Rよりも早くに採用していた点に注目。上面には排熱ダクトが設けられ、ラジエター後方の熱気を排出すると同時にフロントのダウンフォース確保に貢献する。ヘッドライトは固定式に変更され、ライトユニット自体は純正をそのまま使用。ステー部分はカーボンで新造された。

純正と見まごうばかりのフィッティングの良さは、さすが無限というべきか

新規製作された外装部品はカーボンコンポジット製で、大きく盛り上がったフロントフェンダーのウインカーレンズは純正をそのまま使用する。素材はカーボンコンポジット製で、単品は指で軽くつまめるほど軽いという。

リアフェンダーは約35mmワイド化。後方にはエアアウトレットも設けられるが、こちらはデザイン優先だそう。サイド部分のインテークダクトはタイヤハウス内に走行風を導く。サイドステップも専用形状のものが装着される。

レーシーなイメージを演出するフィラーキャップは、VFR750R[RC30]純正を移植。トランク容量はベース車両から変更なし。リアバンパーはショート化され軽量化に貢献している。マフラーは左右2本出しだがサイレンサーの位置などが変更されている。

フロントオーバーハングの下側部分はフラットボトム化。上方に向かって凹んだ形状となっているが、空力的な根拠があったわけではなく「テスト的に作ってみた」という段階だったようだ。MUGEN NSX protoが制作されていた1990年代初頭、まだまだエアロパーツ開発はアナログ的な時代だった。

ヘッドライトユニットを除けば、フロントまわりは純正をキープ。ABSも前期型純正のままだ。ベース車両は初期モデルのMT車のため、電動パワーステアリングも非装着。スペアタイヤなどはさすがに時代を感じさせる。

カーボン製パーツにより約70kgの軽量化、最高出力は320ps以上

フロントまわりと同様、リアのエアロパーツも大きく姿を変えている。リアスポイラーは大型化されダウンフォースを獲得するいっぽう、リアバンパーは短縮されてオーバーハング部の軽量化が図られた。

トランクフードは純正のアルミ製。リアスポイラーは後方&上方にボリュームアップした形状で、空力性能をアップ。こちらも素材はカーボン製で軽量化にも貢献する。

リアカウル上に装着されたエアスクープ。いわゆる「ちょんまげ」だが、純正オプションで用意されていた製品とは別形状の専用タイプ

リアカウルはプレキシグラス製で、ルーフ上からフレッシュエアを吸い込むインテークダクトを装着。このダクトや、エンジン上部に備わるトレイもカーボン素材が使用され、軽量化への徹底した拘りが感じられる。

ガラスハッチはプレキシグラス製に変更され、軽量化に貢献。エンジンリッドもカーボン製で新造された。中央部分に設けられた窪みは、エアダクトを通って侵入した雨水を溜めておくためのもので、後方に開けられた穴から排出される。その「受け」もカーボン製という拘りぶりだ。

搭載されるエンジンは、C30Aをベースにバルブタイミングやバルブサイズを変更。排気量は変わらないものの、吸排気系およびECUチューンにより320PS以上を叩き出す。ピークパワーの発生回転域も、ノーマルの7300回転から8000回転へと引き上げられた。

タワーバーは無限パーツとして単品販売も行われていたもの。エアクリーナ〜ボックスはワンオフ成型され、エンジンリッドを通って直接吸い込む方式に変更。現車は3リッターのままだが、開発段階では3.5リッターまで排気量を拡大してテストしていたという。

MUGEN NSX protoは「早すぎた」コンプリートカーだった

純正のダッシュボードが残るインテリア。ステアリングは無限とMOMOが共同開発したもの。シフトノブやサイドブレーキは純正がそのまま使用される。

メーター内部は日本精機製320km/hフルスケールに交換される。タコメーターのレッドゾーンは8500rpmからと、高回転高出力仕様を物語る。

シートは無限オリジナルのフルバケットタイプ。ヘッドレスト部分には無限ロゴが刺繍される。そのほか4点式フルハーネスやアルミ製スポーツペダル、アルミ製ロールケージが装着されている。

フロントと同様、リアにもアンダーフロアパネルが装着される。車体下側の流速を高め、大型化されたリアスポイラーと合わせてボディ全体でダウンフォースを発生させる。

ホイールはピアスボルトが特徴的な「無限M7」で、サイズはフロントが16×8.5J、リアが17×9.5J。ベース車両からそれぞれ1インチのアップとなる。ワイド化されたボディに合わせ、スペーサーを装着することでトレッドを確保している。

無限にとって初のコンプリートカー製作となったMUGEN NSX protoだが、車両の完成度の高さとは裏腹に、販売方法や生産方式といった量販車としてのイロハについては課題も多く、結果的にプロジェクトは凍結してしまう。

「登場が早すぎたクルマ」とNSXを評する声は少なくないが、MUGEN NSX protoもまた「早すぎた」1台といえる。

現在は三重県鈴鹿市「HCMスポーツガレージ」にて展示中

そんなMUGEN NSX protoは、新車当時そのものといった姿にレストアされ、2022年3月現在は東名阪自動車道・鈴鹿インターを降りてすぐの『HCMスポーツガレージ』にて展示中。

HCMスポーツガレージ
www.hcm-sportsgarage.com
住所: 〒519-0314 三重県鈴鹿市長澤町 1528-1
営業時間: 10:00~19:00
定休日: 毎週水曜日、第2、3火曜日
TEL: 059-371-6678

正規ディーラー・ホンダカーズ三重が運営するスポーツショップで、歴代ホンダスポーツのメンテナンスやチューニングに精通しているほか、「無限オフィシャルファクトリー」として様々な無限パーツやグッズを取り扱っている。ぜひ気軽に訪れてみてはいかがだろうか。

(photo:Yukio YOSHIMI 吉見幸夫、text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)

MUGEN NSX prototype
SPECIFICATION
□全長×全幅×全高: 4375×1880×1155mm
□ホイールベース: 2530mm
□トレッド(F/R): 1530/1530mm
□最低地上高: 120mm
□車両重量: 1280kg
□エンジン: C30A型 V型6気筒DOHC VTEC
□排気量: 2977cc
□ボア×ストローク: 90.0×78.0mm
□圧縮比: 10.5
□トランスミッション: 5速MT
□使用燃料: 無鉛プレミアム
□燃料タンク容量: 70リットル
□最高出力: 320ps以上/8000r.p.m.
□最大トルク: 31.0kg-m/5500r.p.m.
□ホイールサイズ(F/R): 16×8.5J / 17×9.5J
□タイヤサイズ(F/R): 225/45ZR16 / 265/40ZR17
□サスペンション型式(F&R): ダブルウィッシュボーン式
M-TEC 無限(TEL:048-462-3131)
www.mugen-power.com